中年主婦の道楽な日々


by 鬼灯 (きちょう) ~ funka_omi~
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『超生命ヴァイトン』 E.F.ラッセル HPB 3064
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数年前に古書店で購入した本です。
押し入れから引っ張り出し、ひと月かかって先週読み終わりました。
真ん中くらいまでは一気に読み進んだのだけど、後半失速。。
最後20ページくらい残して放置、やっと読み終えたといったところです。

世界的権威の科学者たちが次々と謎の死をとげていく。
病死、自殺、事故。原因はさまざまなのだけど、何かがおかしい。
一見無関係に思えた彼らの死に、ある共通項がみつかる。
それは空中高く生息する「超生命体」の存在。
人類は、青い発光体ヴァイトンの「家畜」だったのだ。

うわー!これぜったい面白いわ!!
って設定でしょ?w
もちろん面白かったのだけど。
昔のSFだから、テレビ電話だの真空管だの「当時想像した未来」が現代に追いついてないのは仕方ないので置いといて、そんなことは問題じゃないのです。

一般人だったはずの主人公が、なぜか知力体力に優れたヒーローだったのもアメリカ的だと思えば我慢できるし、周囲ではヴァイトンに襲われてどんどん人が死んでいくのに主人公だけは絶対襲われないというご都合主義なのも、まあよくあることとしても。

アジアはしょうもない国々で、やっぱりアメリカが世界の(ていうか人類の?)リーダーで正義という物語の進行に辟易したのです。
第二次世界大戦が終わってからまだ20年のころに出版された小説ですから、そんなものなのかもしれませんが。
ヴァイトンに操られた日本が原爆を投下してアメリカの各都市を破壊していくあたりは、読んでいて気持ちが沈んでいきます。008.gif

「いいかげんにしてよね!」
と思わず、作者に突っ込みたくなったのは、私が日本人だからなのでしょうか。
そんなわけで、大団円のラストにも気持ちはスカっとしませんでした。。(´・ω・`)


それはともかく、私はHPBの装丁が好きです。
新書より少し丈長なサイズも、天地小口に色がついているのも好きです。

自宅の本棚にHPBが並んでいたら嬉しいでしょうね~016.gif
(まだ並べるほど冊数がありませんw いつか…)






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by gin_no_tsuki | 2014-06-16 13:42 |
新装版とらんぷ譚Ⅱ「悪夢の骨牌」中井英夫 / 講談社文庫
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1/22読了。
皆川博子さんを読んだ直後のせいか皆川さんの印象を引きずってしまい、「中井英夫」の世界にどっぷりと浸るということができませんでした。

美しい母娘の取り巻きだった青年が二人、忽然と姿を消した。
その謎を解明していくというミステリー仕立てで物語は始まります。
異界から届く手紙、胎内めぐりの様な地下水道、夢魔の館、タイムトラベル、戦後風俗史。。

そこはとらんぷ譚、パラパラとカードをめくるように物語は移り変わって行きます。
一見関係のなさそうな物語も最終話で収束し「なるほど」と思わされるのは、前作「幻想博物館」と同じです。

好みで言えば「幻想博物館」のほうが好きですが、こちらの方がより作者の「戦中戦後の日本」への反感がはっきりと感じられるように思います。

新装版 とらんぷ譚 (2) 悪夢の骨牌 (講談社文庫)

中井 英夫/講談社

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さて、他の作家さんのイメージへ移らないよう、続けて「とらんぷ譚Ⅲ」を読むことにします。





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by gin_no_tsuki | 2014-01-23 22:55 |

「結ぶ」皆川博子

1/12(日)読了。
「結ぶ」 皆川博子・作 創元推理文庫
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そこは縫わないでと頼んだのに
ちょっとビックリする表現で始まる表題作「結ぶ」。

ん?
何かの擬人化?
それとも、「縫う」が比喩?

縫い縮められ、アルマジロのように丸くなっていく。
これはどうやら比喩でも擬人化でもないらしい。
数ページ読んでやっとそう気付いた。
要らぬことは考えずに、文字の表すままに読めばいいのだ。
そこには作り手と作品があるのみ。

縫われたりプリントされたり、嫌じゃないのかな。痛くないのかな。。
皮膚の表面がツキツキするような感覚を持ちながら読んでいく。

え!「結ぶ」ってそういうこと?
あらら。。。
想像できなかったわ。。(;^^)
さすが皆川さん、グロい状況もサラっと何事もないように表現してしまうのねw


幼いあなたのためにいろいろなものを煙に変えたのでした。「水色の煙
初めて訪れた写真館に飾られた幼いころの「私」の写真、出迎えてくれた写真館の女主人の記憶と「私」の記憶が交錯する。「水族写真館
死んで後、袋に詰められ飼われていた愛しい人の魂。。「空の果て
現実か未來か過去か。無限ループの世界に迷い込んだ「

などなど。
そんな「不思議で美しいお話」が18篇も詰まった短編集です。

陽の光の届かない仄暗い空間では、生者も死者も見分けがつかないのです。


えーと。コレは過去。コレは現在。コチラは第2過去。。第3過去?
のように時間軸があちらこちらと移っていくような物語が好きです。
長編だと、間違わないように確認しながら読んでいてもだんだん分からなくなっていくのだけど、短編だから迷うことなく不思議な世界を満喫できます。





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by gin_no_tsuki | 2014-01-17 16:19 |
『新装版 とらんぷ譚 (1) 幻想博物館 (講談社文庫)』中井 英夫 読了。
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薔薇が咲き乱れる精神病院に入院する患者たちの、美しい妄想が織りなす連作短編集です。
インタビュアは何者なのかを気にせず読んでいくと、途中「え?」と齟齬を感じる部分が現れてきます。
違和感を覚えながらも読み進めると、最終話で……(◎Д◎;;)

さらに「あとがき」に書かれた「現実にあった事件」との奇妙なリンクが心をザワつかせます。
「現実」は「物語」よりも、もっとずっと恐ろしい。。

本当は精神を狂わせた人たちの妄想が、こんなに美しいことばかりではないのでしょう。
「最後の物語の男は私自身」と書いておられる通り「現実」の辛さ醜さから逃れたかった作者にとって、「狂う」ことへの憧れがあったのかもしれません。



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by gin_no_tsuki | 2013-12-12 23:32 |
『アミダサマ』沼田まほかる /新潮文庫
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ホラーテイストな小説だな~と思いながらも「ホラー小説」とは思わずに読んでいました。
作者紹介をみましたら「ホラーサスペンス大賞を受賞してデビュー」とありましたので、
あ、ホラー小説だったのか?(;^^)と変な納得の仕方をしてしまいましたが。

耳鳴りのような「コエ」に呼ばれた青年と「気配」に導かれた僧侶、彼らが偶然出会ったのは廃棄物置場に置かれた冷蔵庫の前だった。
冷蔵庫の中からは裸の幼女が瀕死の状態で発見された。

幼女の「愛を乞う」無邪気な妄想が、人々を闇へと追いやっていく。。。


僧侶と幼女をとりまく人々の変化は、小野不由美「屍鬼」の冒頭を思わせます。
解説でも「邪悪な空気というのが…ねっとりと絡みついてくるような」「何かおぞましいものが足下から這い上がって来るようで」と書かれています。

けれど、少しずつ悪意に染まっていく人々の様子は薄気味悪いものではありますが、それよりは幼女の狂おしいほどに「愛を求める」姿が可哀想で悲しくて、ホラーであることを忘れてしまうのでした。

幼女の「コエ」に呼ばれた青年も、再びコエを求め希うあまり自らの生活を崩していくのです。
青年もまた「愛」に飢え「愛」を求めるも愛し方を知らず、暴力を振るってしまう哀しい存在なのでした。

幼女と青年が再会したとき、すべては混沌に呑みこまれていきます。

青年と僧侶と土地の人々を救ったのは、一人の女性のひたむきな「愛」でした。
殴られても罵られてもただひたすら赦し愛し続けた女性の存在が、哀しい終焉を優しく包み込みます。


「愛」って求めて得られるものではないのだな、と切なくなります。
タイトルの「アミダサマ」ってなんだったんだろう、と考えてもよくわかりません。
願わくは、幼女も青年も僧侶もみんなが穏やかな救いを得られますように。


私はやっぱり「ホラー小説」とは思えないみたいです。
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by gin_no_tsuki | 2013-11-11 00:00 |
先日読み終わった『模倣の殺意』についてAmazonレビューを読んでみたけど、ボロクソ書かれてたりしてションボリです(´・ω・`)

確かに最近では珍しくないトリックなのかもしれないし、文章も流麗というわけではないけど、その無骨さにも好感もてたりするわけで。

自分が好きだと思った本を悪く言われると、ちょっとへこむわ…。
ま、Amazonレビューなんて、ぜんぜんアテにならないからいいけどね021.gif
先日買った「セラミックおひつ」も、壊れやすいとか使ってすぐ割れたとか書かれていたけど、ぜんぜん壊れないよ。
あまり気を使わずにガンガン使ってるけど、まったく平気♪

それは、いっかww

で、「模倣の殺意」のように、密室の謎を解くとかトリックを見破るとかじゃなくて、文章によって読者を迷わせていくようなミステリーを「叙述トリック」というのね。

今まで読んだ数少ないミステリー作品の中で、私が「好きだわ」と思うのは、この叙述トリックと言われる作品のようです。

もうずいぶん前に読んだ小説ですけど、安孫子武丸『殺戮にいたる病殊能将之『ハサミ男もそうだったかもしれません。

登場人物や物語の背景を自分なりに設定して読んでいくわけですが、どこにも齟齬はないはずなのに、最後にどんでん返しされて「騙された!Σ(゚д゚lll)」ってなるんですもん。

殺戮にいたる病』などは騙されたことに納得がいかなくて、どこかに必ず破綻してる箇所があるはずだ」と注意しながら読み直しても、やっぱり騙されてしまう。。

騙される!ってわかって読んでいるのに、やっぱり同じ道をたどって読んでしまうのです。
(若干、無理があるかも…と思うところはあるとしても…)

殺人方法が少しエログロなので、そういうのが嫌いな人は読めないかもしれません。
最後も気持ち悪いと言えば悪いですけど。。

それで「安孫子武丸って好きだわ♪」と思って他の作品を読んでみたらそうでもなかった(;^^)
この作品だけ異常に好きっていうのは、「叙述トリック」だったからだと今にして思うのです。

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

我孫子 武丸 / 講談社

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ハサミ男 (講談社ノベルス)

殊能 将之 / 講談社

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by gin_no_tsuki | 2013-07-03 11:59 |
『模倣の殺意』 中町信 /創元推理文庫

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駆け出しの推理小説作家「坂井正夫」が自宅アパートで服毒死した。
部屋には内側から鍵がかかっており、鍵は死体の財布に入っていた。
警察は自殺と発表したが、その死に疑問を持った二人の人間が真相を調べ始めた。。


坂井の恋人「中田秋子」と知人でルポライターの「津久見伸助」が、それぞれに独自のやり方で死の真相を探ろうとします。
二人の行動を交互に、日付順に追いながら物語は進みます。
出来事や表現のあちらこちらに、トリックを見破るための要素が散リばめられていました。
もっとも読後に気づくのですけど。
読んでいるときは、なんとなく「?」を感じていただけです。

最後に解明されて、「ああ!そっかあ!」と、「なんとなくモヤモヤしていたのはコレだったのかあ!」と腑に落ちるのです。

そして帯に書かれた「騙されずに見破れますか?」をみて、「騙されたよ!くそぉ!」となるのですw

文章中の(ギャグみたいな)セリフが、実は伏線だったと気付いたときは、ほんとヤラレタと思いましたわ!

私はあまりミステリー小説が得意ではないのですが、この本は笑っちゃうような不自然なトリックもないし、社会不適応者みたいな有名探偵も出てこなくて読みやすかったです。
頭が痛くなるような、時刻表トリックもないしねww

書店で平台展開していたのでてっきり新刊だと思っていたのですが、40年も前の小説でした。
携帯電話はないしメールじゃなくて手紙だしJRは国電だし、変だなとは思ったのですけど。
でもそんなのは全然関係なく、面白かったですよ~016.gif

他の作品も読もうと思ってまた書店へ行ったのですが、在庫はありませんでした。
あんまり売れっ子作家ではなかったようです。。。

やっぱりAmazonかなあ…><

模倣の殺意 (創元推理文庫)

中町 信 / 東京創元社

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町の本屋さん、もちょっと頑張ろうよ・・・(´・ω・`)
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by gin_no_tsuki | 2013-07-02 00:17 |
読み終わったのは、3日ほど前です。
購入したのは、さらに昔、10年以上も前なのですが…(;^^)
町田の古本屋さんで半額で買って、押し入れに突っ込んだまま忘れ去られていた文庫本です。
読まれずに忘れられてたなんて、可哀想…(私のせいだけどw)
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読む前は、人間だれしも一つや二つ他人には理解しがたいようなクセやこだわりがあるよね♪
っていう話を集めたのかと思っていました。
いや、そんな程度の「ビョーキ」なんて可愛いもんだわ。

収録されているのは、シュールな小説、抱腹絶倒SF、実話エッセイ、どうか実話じゃありませんように(>人<)な話など13篇です。
12人の作家の様々な文体の短編を次々読んでいくと、なんだか眩暈がしてきそうです。
らせん階段をのぼったり下りたりまた昇ったりして、クラクラしているような感じになります。
しかも内容が内容ですし。。042.gif

内田春菊(2篇)、谷崎潤一郎、大槻ケンジ、横光利一、遠藤周作、内田百閒
色川武大、坂口安吾、葛西善蔵、秋元松代、筒井康隆、島田雅彦


横光利一「盲腸」、遠藤周作「役たたず」が面白かったので、他の作品も読んでみようと思います。
(名前だけはよく知っているのに、作品は一つも読んでいなかったのです)

既読だった2篇、百閒「掻痒記」はこちらの頭まで痒くなってくるし、筒井康隆「ポルノ惑星のサルモネラ人間」は、奇想狂騒で笑い死にしそうです。
よくもまあ、これだけデタラメを思いつくものだわww

このお二人の作品は、無条件で大大大好きなのです016.gif

島田雅彦「未確認尾行物体」も面白かったんだけど、どうにも気持ち悪くて居心地が悪いのです。
殺意を持つほど憎んでいたストーカーを、最終的に受け入れてしまう(心情的にですが)というのは、やっぱりダメですよ。
身勝手で一方的な愛情は、恐怖でしかなく吐き気さえ覚えます。

とはいえ、それでもどこか「美」を感じてしまうのは島田氏だからか。

む、ビョーキと耽美は紙一重か? んんんん。。。

人間みな病気 (福武文庫)

筒井 康隆 / 福武書店

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by gin_no_tsuki | 2013-06-11 22:19 |
日曜日の夜に背筋を少し傷めてしまったらしく、寝るのも起きるのも痛くてうまく動くことができないので、月曜から水曜日まで仕事を休んでいました。
特に何か大仕事をしたわけでもないのにねぇ。。008.gif
ほんと、年とるってイヤ。。
じゃなくて、ぜったい運動不足だわね。。
前々からぎっくり腰みたいになる事が多くて、腹筋と背筋を鍛えなさいって言われてたしなあ。。

家事もろくにできないので、トルーマン・カポーティ『犬は吠えるⅡ 詩神の声聞こゆ』を読んでいました。

『犬は吠えるⅡ 詩神の声聞こゆ』トルーマン・カポーティ / 小田島雄志訳 / ハヤカワepi文庫
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1936年ブロードウェイで好評を得たガーシュイン作曲のオペラ「ポギーとベス」は、1951年から4年にわたってヨーロッパ公演を行い各地で成功を納めていた。
1955年レニングラードで行われた最終公演の様子を、同行した著者が記したノンフィクションノヴェルである。
当時はスターリンの死後、第一次米ソ冷戦が雪解けした時期で、文化芸術によって互いに理解し合おうという気運であったらしい。

前編「砲声絶えるとき」は西ベルリンからソ連へ向かうまでの旅中における劇団員の様子を、後編「詩神の声聞こゆ」はレニングラードに到着してから公演が行われるまでの劇団員とソ連の人々の様子を記している。

秘密主義のソ連にアメリカ人たちは不安になり、ソ連の人々はアメリカの奔放な表現に戸惑う。
敵対していた人々が歩み寄るときの微妙な遠慮と好奇心、さらに自尊心の駆け引きが興味深い。

表題は、ソ連巡業の責任者でソ連文化省の要職ニコライ・サフチェンコの歓迎演説「…皆さんの来訪は平和への行進の第一歩です。砲声ひびくとき詩神の声とだえ、砲声絶えるとき詩神の声聞こゆ、です。」によるもの。

巻末に、来日中のマーロン・ブランドを京都の宿に尋ねた「お山の大将」を収録。


オペラ『Porgy and Bess』は「ポーギーとベス」と邦訳されているが、小田島氏訳では「ポギーとベス」となっている。

私は元のオペラは観たことがありませんが、ルイ・アームストロングとエラ・フィッツジェラルドのアルバムが大好きで、知人への贈り物にもしています。

ポーギーとベス

エラ・フィッツジェラルド&ルイ・アームストロング / ユニバーサル ミュージック クラシック

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エラの豊饒な声とサッチモの素朴な声が、なんとも言えず切なく暖かい気持ちになります。
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by gin_no_tsuki | 2013-01-24 01:28 |

ノラや (中公文庫 M 77-3)

内田 百けん / 中央公論新社

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『ノラや』は、失踪した飼い猫「ノラ」捜索の顛末とその後に家に居着いた猫「クル」に寄せた百閒先生の愛猫日記(としておこう)様の随筆である。


百閒先生は野良猫の子どもを飼い猫にし「ノラ」と名付けて溺愛していた。
ノラのご飯は新鮮な小鯵と高価な牛乳(普通の牛乳は飲まないのだ)、時々寿司屋の玉子焼き。
ずいぶん贅沢をさせている。
百閒先生曰く「(猫も)衣食足りて礼節を知る」なのだそうだ。

けれど2度めのサカリの時期に家を出たきり、ノラは帰ってこなかった。
落胆した先生は悲しみで仕事も手に付かず、不眠症になり毎日泣いて過ごしていた。
ノラの寝場所であった風呂場の風呂蓋に顔をつけ、「ノラや、ノラや」と呼んでは泣く。
襖の陰、庭の繁みにノラの姿を、愛らしい声を思い出しては、また泣く。

迷い猫の張り紙をし新聞に折込広告を出しNHKラジオでまで放送されたりで、町中大勢の人々を巻き込んでの大捜索となる。

警察からまでも猫情報が届いたりするのだから、当時の東京下町がいかに人情味があって、人と人の関わりが近かったかがわかる。

目撃情報を得て確認に行くのは、細君だったりかつての教え子たちであった。
時には、すでに死んでいて土に埋めてあるのを掘り返して確認したりもした。

百閒先生は指図をするばかりで、自分では出かけて行かない。
誰かが確認に出向いている間、部屋でひとりノラを想って泣き続けているのである。

いいトシをした大の男が、である。
気持ちはわからないではないが、情けなさ過ぎる。
だいたい、他の随筆を読んでみても、百閒先生は自分本位で我儘で、まるで子どものように自制が効かないのだ。

それでも多くの人たちが、先生のために骨を折ってくれる。
腹立ちながらもなぜか憎めなくて「しょうがないな」と、つい手を貸してしまう。
男も女も教え子だろうが関係なく、先生を構わずにはおれない。
愛すべき「百鬼園ぢじい」である。

百閒先生こそ「猫」みたいだなと思う。


さて、手持ちの文庫は10年以上前に、どこかの古本屋の店頭で買った本である。
なので、頁は茶色く日焼けし蒸れて膨れている。
所々、読み途中のために頁の下端を三角に折った跡がある。

でもこういう「古本」も嫌いじゃない。
時には巻末に短く感想が書いてあったりする。
きっと読書好きの人が夢中で読んだのだろうと思うと、嬉しくなる。
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by gin_no_tsuki | 2012-10-31 23:12 |